2011年3月21日月曜日

あなたが、情報を選択するのですよ

そろそろ、原子炉の中身について、少しだけ怖い話を致しましょう。
(2009年07月15日 講義録より)

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原子力と共存できるか? 核と原子力は同じもの
京都大学・原子炉実験所 小出 裕章

 核兵器に反対すると言うことに関しては恐らく世界中の人が賛成されるものだと思います。しかし原子力の利用と言うことになると多くの方がそれに期待され、必要であるとお考えではないでしょうか。しかし私自身は核と原子力は同じものだと考えています。

■東海村事故での悲惨な死
 1999年9月30日、茨城県東海村の核燃料加工工場で、「臨界事故」と呼はれる事故が起こりました。ステンレス容器にウラン溶液を流し込む作業中に、1つの容器の中で核分裂連鎖反応が突然始まり、作業に当たっていた3人の労働者が大量被曝をしたのでした。 最大の被曝を受けた大内さんは12月に、2番目の被曝を受けた篠原さんは翌年4月に帰らぬ人となりました。
 放射線に被曝する場合、ほんのわずかのエネルギーで人間が死んでしまう理由は、生命体を構成している分子結合のエネルギーレベルと放射線の持つエネルギーレベルが10万倍も100万倍も異なっているからです。

■原子力発電は湯沸かし装置

 多くの人は、原子力というと科学の最先端で、とても難しいことをしていると思うでしょう。
しかし、原子力発電でやっていることは単にお湯を沸かす火力発電と同じで、
沸かした湯気でタービンという羽根車を回し、
それにつながった発電機で電気を起こしているにすぎません。
それなのになぜ原子力が特別な危険を抱えているかといえば、
原子力の燃料であるウランを燃やせば(核分裂させれば)、
核分裂生成物という死の灰が否応なくできてしまうからです。
火力発電が東京湾や大阪湾に多く存在するのに、
原子力発電所が大都会の近くにないのはまさにその危険な廃棄物があるが故のことなのです。

 広島原爆で燃えたウランは800g、長崎原爆で燃えたプルトニウムは1100gでした。
一方、今日では 標準となった100万kWの原子力発電所の場合、
1年間の運転で約1000kg、広島や長崎の原爆で燃えたウランやプルトニウムに比べて
約1000倍のウランを燃やします。当然燃えた分だけの死の灰ができます。

 それほどの危険物を内包した原子力発電所が大事故を起こした場合
どのような被害が起きるかは、事実が教えてくれました。
旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所で1986年、事故が起きたからです。
この事故では炉心に蓄積していた3~4割、広島原爆800発分が放出されました。
その結果、「放射線管理区域」に指定しなければならない程の汚染を受けた土地の面積は、
日本の本州の6割に相当する14万5000平方キロになりました。

■都会には建てられなかった原発
 巨大事故が怖い彼らが次にやったことは、原子力発電所は都会に作らないことでした。
 2007年7月16日に中越沖地震に襲われた柏崎・刈羽原発は東京電力の原発ですが、
それは新潟県にあり、東北電力の給電範囲です。関西電力も同じです。
福井県若狭湾に林立させ、長大な送電線を敷いて、関西圏に電気を送ってきたのでした。
 それでも彼らは原子力発電は必要だと言います。
その主張の最大の根拠は今ある化石燃料はいずれ底をつき、
それに代わる発電手段が必要だと言うことです。果たして本当でしょうか。

■貧弱なウラン資源
 原子力の資源はウランです。ただし、一口で「ウラン」と呼ぶ元素には質量数が
235のウランと、質量数が238のウランの2つがあり、
このうち原爆あるいは原子炉の燃料とできるのは、
核分裂という性質を持っているウラン235だけです。
そしてそのウラン235はウラン全体のわずか0.7%しか存在しません。
 現在の原子力発電ももちろんこのウラン235を利用していますが、
利用できるエネルギー量に換算すると、石油に比べて数分の1、
石炭に比べれば50分の1しかありません。
 また石油の可採年数も1930年にはあと18年だと言われていました。
しかし1950年にはあと20年、1990年にはあと45年と言われています。
このように化石燃料はいずれ底をつく、
と言うのもかなりいい加減な推測でしかないのです。

■実現しない高速増殖炉
 一方、後に述べるように長崎原爆はプルトニウムという物質を材料としましたが、
プルトニウムは原子炉の中でウラン238が自然に姿を変えて生まれる物質です。
そのため、原子力に夢を託す人たちは
ウラン全体の99.3%を占める非核分裂性のウラン(U-238)を
プルトニウム(Pu-239)に変えて利用することを思いつきました。
それを実現するためには、燃えないウランを効率的にプルトニウムに
変換するための高速増殖炉という特殊な原子炉が必要です。
そして、さらに、生み出したプルトニウムを分離して取り出すための再処理工場が
必要です。それが原子力を進める人たちが目指した本来の核燃料サイクルです。
しかしこの高速増殖炉の稼働が不可能なことは世界では常識です。
このような実現しない計画のためにすでに1兆円以上が費やされています。

 今、日本では青森県六ケ所村に普通の原子力発電所から出る使用済み燃料の中から
プルトニウムを取り出すための六ケ所再処理エ場が建設され、
本格運転に入る瀬戸際にあります。その六ケ所再処理工場は原子力発電所約 30基が
1年毎に取り扱える量に相当する800トンの使用済燃料を毎年取り扱います。
再処理工場では核燃料棒を細かく切り裂き、硝酸に溶かした上で化学的に
プルトニウムを分離しなければなりません。当然、環境に放出する放射能の量は
桁違いに多くなり、原子力発電所が1年で放出する放射能を1日で
放出するといわれます。

■ウラン濃縮、原子炉、再処理が核軍事の中心三技術
 広島に落とされた原爆は核分裂性のウランを材料に作られました。
ウラン全体の中にわずか0.7%しか存在しないそれを集める作業を「濃縮」と呼びますが、
その作業には膨大なエネルギーが必要でした。
そこでマンハッタン計画では、プルトニウム239を材料とする原爆を作る作業も
平行して行われることになりました。今日「原子炉」といえば、
多くの人は原子力発電を連想するでしょう。
しかし、原子炉とはもともとはウラン238をプルトニウム239に
変換するために作られた装置です。
 また、原子炉の中にプルトニウム239が生み出されたとしても、
それを材料にして原爆を作るためには、燃え残りのウランや、
ウランが燃えてできた核分裂生成物(いわゆる、死の灰)を分離しなければなりません。
その著しく困難な作業のために開発きれた技術が「再処理」です。
 そして、日本は「原子力の平和利用」と言いながら、
「ウラン濃縮」「原子炉」「再処理」の核開発中心3技術を持つ、
非核兵器保有国として世界で唯一の国になりました。

■言葉による事実の隠蔽
 「Nuclear Weapon」という単語は「核兵器」と訳されます。
一方、「Nuclear Power Plant」は 「原子力発電所」と訳されます。
同じ「Nuclear」 という単語が日本語では 「核」と訳されたり、
「原子力」と訳されたりします。そして、「核」は軍事利用で悪いものであり、
「原子力」は平和利用で良いものであるかのように情報が操作されてきました。

 そして、「Nuclear Development」は、もしそれを行う国がイラク、イラン、北朝鮮
であれば「核開発」と訳され、軍事的な攻撃も含め制裁を加えるべきだと宣伝され、
そして実際に実行もされてきました。しかし、日本が行う場合には
「原子力開発」と訳されて、文明国家としてこれからもどんどん進めると言うのです。

 もともと科学や技術に「軍事」用も「平和」用もありませんし、
「Nuclear」という単語が一つしかないように、日本語で使い分けられてきた
「核」と「原子力」は同じものです。
 私たちはエネルギーを利用するために原子力が必要だと思わされています。
しかし、それを使ってしまえぱ、大量の放射能を生み出さざるをえない上、
燃料であるウランはもともと資源としては貧弱です。
やむなくプルトニウムを利用しようしていますが、
プルトニウムは人類が遭遇した毒物のうちでも最強の部類に属する毒物である上、
原爆材料です。それを大量に取り扱おうとすれば、
あらゆる意味で厳重な管理が必要となります。
いわゆる警察国家です。自由な社会を失い、
毒物に怯えながらもなお原子力を使う必要があるかどうか、
しっかりと考えてみるべきです。

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