2011年3月21日月曜日

多くの金を持つ芸能人たちは、

東京から逃げ出しております。

坂本龍一は、いま、東京にいます。
彼を芸能人と呼んでいいかどうかは、とても問題のあるところです。

人は、己で、己の人生を選択するのです。

生きていこうではありませんか、愛する人よ


  ■ 『from 911/USAレポート』第505回

    「分散とハイブリッド、復興計画の基本を考える」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)




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 ■ 『from 911/USAレポート』               第505回
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「分散とハイブリッド、復興計画の基本を考える」

 危機はまだ脱していませんが、ようやく復興へ向けての議論が始まったのは良いこ
とだと思います。例えば、このJMM月曜日版でも復興資金総額の議論が始まってい
ますし、慶応の中村伊知哉先生などが「復興八策」という短いメモで資金調達方法を
提案しています。また、この間、元原子炉エンジニアとして貴重な発信を続けている
大前研一氏は、復興計画にも言及しており、国債の追加発行は絶対に避けて、全ての
復興資金には財源を手当せよという主張を展開していました。

 実は、アメリカでの復興論議は震災直後の3月15日から始まっています。同日付
の『ウォール・ストリート・ジャーナル』にジョージ・メローンという同紙の元論説
委員が『割れ窓の詭弁と日本』という論説を寄稿していました。19世紀フランスの
フレデリック・パスキアという経済学者の提起した「割れ窓の詭弁 ("the broken
window fallacy")」が日本に当てはまるという内容です。つまり「イタズラな男の子
がパン屋のガラスを割って逃走した場合、補修費がかかってもガラス屋が儲かるので
経済は成長する」のは「ウソ」であるということから、過度のケインズ主義を批判す
るロジックです。

 面倒なロジックを使いながらも、メローンの言いたいのはこういうことのようです。
つまり、震災直後の日銀の流動性供給が足りないという批判であり、それゆえに円高
を招いたという解説であり、更には、そんなことでは復興資金については「ゼロイー
ルド」、つまりリターンは望めないという辛口の論説です。アメリカは市場という特
殊な合理性を使って、今回の震災のインパクトを吸収しにかかっているわけで、その
点ではこうした議論は避けられないでしょう。ですが、日本人の立場からは「ふざけ
るな!」としか言いようがありません。

 では、どう反論すればいいのでしょう? こうしたシニカルな観点に対しては、も
っと真剣な復興計画の青写真を提示してゆくしかないように思います。勿論、現在は
まだ危機が進行中であり、その対応に政財界も世論も手一杯なのは分かります。です
が、通貨が翻弄され、やがて国債が翻弄されるのを防ぐためにも、どんどん復興のプ
ランは発信してゆかなくてはならないのです。その際に、大きな選択肢としては二つ
あるように思います。

 一つは大前氏のように、復興計画という資金需要を手堅い財政政策で乗り切ること
が日本という国の延命になるという考え方です。常識的にはこうした判断になるのは
当然だと思います。ですが、そうした一見手堅い復興計画では、リターンは限られま
す。下手をすると、パスキエの「割れ窓」理論に陥ってしまう危険もあるように思う
のです。ですから、この際、何らかの形で大規模な国際社会の資金を受け入れて「復
興イコール成長へ向けての改革」という戦略に切り替えるという発想も排除すべきで
はないように思うのです。

 その場合、財源に関しては従来の発想を転換し、大きく言えば欧州を大戦による荒
廃から復興させたマーシャルプランのように、小さな例では海のものとも山のものと
も分からない東海道新幹線プロジェクトを世銀融資で実行したように、大規模で長期
の復興債を起債し、東北だけでなく日本全体を作り替えるぐらいの改革を行うのです。
つまり、今回の災害を、単に2011年3月の東日本大震災と原発事故によるエネル
ギー危機というような「狭義の危機」と位置づけるのではなく、1990年以降の
「失われた20年」に拡大し、そこからの復興を目指すのです。

 以下「大震災+失われた20年からの復興」を目指す場合の問題提起を箇条書きし
ます。緊急事態の下での走り書きですから、空回りしている部分もあるかもしれませ
ん。ですが、個々の論点についての発展と修正の中から、幅広いアイディアが出てく
ることを期待したいと思います。

(前提その1)
 2031年、被災20周年をターゲットとして、そこまでの目標成長率から必要な
資金総額を逆算。絶対にゼロイールドにしない。

(前提その2)
 復興が震災前の復元ではなく、より安全性の追求、より省エネ、より快適性、より
成長性、より脱産業社会化、より高付加価値になるように。必ず成長性という意味で
の発展になるように。一つ一つの投資がハコモノに凝固するのではなく、必ず永続性
的なリターンがあるように。投資の膨らむ部分は、開発したテクノロジーを全国で、
そして外需で回収。

(メインコンセプト1)
 今回の災害の最大の教訓は一極集中の脆弱性。全ての首都機能が東京に集中してい
たこと、その電源が過度に福島に集中していたことが問題。あらゆる機能をいかに
「分散」してゆくか。「分散」がリスク分散だけでなく生産性向上になるように。

(メインコンセプト2)
 一つの組織、一つのシステム、一人の人間が、バックアップを内包した「ハイブリ
ッド」になることで、リスクへの脆弱性を克服し、同時に生産性向上になるように。
例えばPHV(プラグインハイブリッド)車が良い例。東北の復興に当たって、EV
社会インフラは重要な鍵だが、電力危機の教訓を生かすならPHVがベター。ガソリ
ンでも、コンセントの電源でも走るし、ブレーキをかければ発電して高効率を追求。
これが復興にあたって追求する文明のひとつのモデルでは?

(首都機能の分散)
 政治の中心は交通の便の良い内陸へ。官僚機構は意思決定のサポート部門は政治に
近接させるが、実務部門の首都機能は分散。地方が首都機能の分散を受け入れつつ、
地方の伝統を更に活性化。

(大学と産業の分散)
 東大などを解体して、各部門を地方移転。例えばバイオを仙台に持っていったら、
バイオ産業も宮城に持って行く。一流の音大が盛岡に行けば、小岩井や遠野で音楽祭
が行われて世界から人が来るように。各国言語各国文化の教育もバラして分散し、そ
の地域で対象国との交流を拡大してビジネスを発展させる。自動車などの裾野産業は
フルセットで西日本と中部と東北に分散。機械工学や先端技術の最高レベルの教育機
関もそれに近接させる。金融センターは内陸移転し、高度教育機関も。キー局は東京
2、大阪2でもいいのでは?映画は北海道、京都、九州。アニメは東北。出版、広告
や情報も東西に分散。

(情報インフラの分散)
 金融機関も情報通信も行政も主要なサーバは国内複数+海外に。基幹回線のダブル
化。携帯基地局のハイブリッド化(電力+太陽+燃料電池+バッテリー)。情報通信
産業も北海道、四国、九州、沖縄に分散。

(ハブ型組織から、ネットワーク型に)
 東京との結びつきを強化することが復興ではない。盛岡と秋田が結びつくことで、
福島と宇都宮が結びつくことで、また新幹線で金沢・富山と長野が結びつくことで、
そこに首都的な、その分野で日本の中心となる技術+文化+労働マーケットの生まれ
る仕掛け。

(新産業)
 中型旅客機製造ビジネス(全席エアバッグ+高度な消火システム付き)、世界標準
のコンピュータOS、より高機能化したスマートフォン、タブレットでない第四のデ
バイス、圧縮アルゴリズム、情報セキュリティ技術、治験環境を含めた新薬開発、ア
メリカ標準より透明性の高い金融工学、食の安全の世界標準認証ビジネス、アニメに
加えて実写での映画産業の国際化+ビッグビジネス化、遺伝子組換え植物の安全性認
証ビジネス、日本発の全世界ベースのホテルサービス+日本食ビジネス。

(原発長期方針)
 今、福島第一の1号機から4号機を廃炉とするにしても(5号機、6号機の廃炉は
東北復興の足を引っ張る危険から今判断すべきでない)、使用済みあるいは使用中断
燃料について50年後に安全な再処理を開始するためには巨大な中間貯蔵施設が必要。
ならば、今回の事故を契機に、中間貯蔵施設の建設と再処理工場の更なる安全性強化
を行うことは、原発推進論、原発廃止論の双方からも不可避。まずこの議論を進め、
電力ピーク対策、代替エネルギーなどを積算し、目標成長率と突き合わせることから
原発稼働継続の規模を策定。そこで合意がされた場合には第三世代炉に順次置換。

(二酸化炭素排出削減論議)
 この点は、今回の震災ならびに原発事故を受けても、一切の先送りはしない。

(第一次産業)
 農業の高付加価値化、大規模化。震災でもTPPは待ってくれない。漁業の中規模
企業化と再建に当たっての安定した資金供給。港湾+物流+食文化+観光開発を意識
した水産資源開発インフラの高効率な整備。林業の再活性化。

(人間や組織の機能の多重化)
 家庭人、企業人、地域社会の一員の三重性の追求。文系人間に理数の素養。理系人
間に人文の素養。専門職に発信スキルを。ジェネラリストに技術リテラシーを。リー
ダー、中間リーダーへの情報処理能力+発信能力の水準をアップ。NGOに経済の知
識を。営利企業に公益性を。

(トランスポーテーション)
 航空路、鉄道、道路のハイブリッド相乗効果の再設計。新幹線と在来線、高速道と
一般国道、ミニハブ空港と鉄道アクセス、港湾と物流アクセス、貨物と人の移動、な
ど「バックアップがあり、それが平時も高効率になっている」復興計画に。青函対策
も含めて貨物8両、乗客8両のハイブリッド新幹線車両はどうか?経済成長のリター
ンを絶対に実現するという前提で、新幹線の札幌延伸、長崎フル規格なども実現。

(エネルギー)
 コミュニティーが止むなく放棄した沿岸地域が出たら、そこを大規模風力発電所に。
東北を世界でも最も先進的な、エネルギー多角化生産のモデル地域に。東北電力は、
白洲次郎の精神に立ち返って他地域をエネルギー革新で牽引。

(省エネルギー)
 東北の住宅は、LED照明、高度な気密性(一酸化炭素中毒防止システム付き)、
各部屋上下2箇所の温度センサー設置などで冷暖房の効率アップ、ソーラーパネルの
屋根など、高エネルギー効率の設計で再建。前述の通り、東北をインフラを含めたP
HV車の普及モデル地域に。

(防災体制)
 全国全市町村が異なった地域で、相互に「姉妹都市」協定を結び、「全人口の避難
先」を用意。ボランティアも、医療体制も相互救援の体制に。衛星回線での安否確認
システム+緊急地震速報+緊急津波速報個別伝達システムを緊急用バッテリーと共に、
全ての携帯電話にビルトイン。

(ライフスタイル)
 自然の中に最先端がある。大都市に伝統文化とコミュニティの息吹がある。ダブル
三重言語国家、つまり「日本語+英語+アジアのもう一ヶ国語」「自分の地方方言+
いわゆる標準語+他地域の方言」。沿岸地域、超過疎地、放射性物質汚染地域など物
理的に復興の不可能な地域は「移転しつつコミュニティーを維持する」工夫を。地域
ごとに残る男尊女卑や男女分業などのカルチャーは徹底的に克服して、分散イコール
出生率向上に結びつける。

(追悼と記憶)
 エネルギー革新が一定の成果を出した時点で、東北でも神戸のルミナリエとの姉妹
プロジェクトを。光の祭典に加えて、音楽祭や民俗芸能祭なども。東北=神戸=ニュ
ージーランド=スマトラ=四川の心の円環がいつまでも輝くように。

 冒頭のパスキエの「詭弁」に戻ります。パン屋がイラズラな少年にガラスを割られ
たとして、黙ってガラス屋にカネを払ったり、ガラスに穴が開いたのを放置したり紙
を張って済ませるのでは、今回のような困難な状況からの復興は難しいと思います。
思い切ってパン屋を建て替える、いや品揃えを拡大し、屋号を改め、高付加価値+大
量生産でそのパン屋の「味」を広い地域に届けてゆくキッカケにする、そのような気
概を持たなくては復興と成長は両立しないのではないでしょうか。

 先週の一時的な超円高は協調介入で一段落しましたが、市場は冷酷です。高齢化と
社会の成熟そして巨額の負債を背負った日本、そこに今回の巨大災害が襲ったわけで、
その復興についてはいつでも「売り叩かれる」危険があるのです。それをはね返すに
は、復興が改革であり、その改革が明らかに成長に結びつくというストーリーが必要
と思います。そのためには、思い切った資金調達と国家全体の再出発が必要ではない
かと思うのです。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。

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