福島第一原発30km圏における被ばく
情報は、錯綜しております。
以下は、東大病院で放射線治療を担当するチームの見解です。
一昨日(2011年3月31日)、一部が福島第一原発30km圏内に含まれる飯舘村の住民全員を、退避させるか否かで議論が沸き起こり、戸惑われた方も多くいらっしゃると思います。
発端は、国際原子力機関(IAEA)が、「飯舘村で観測された放射性物質の量は、避難基準を上回っている」とし、飯舘村の状況を注視していくよう、日本政府や関係する機関に促したことにあります。
(4月1日の発表では、3月19日から29日の間の平均では、避難基準内と発表リンク)
これを受けて、原子力安全委員会は、「日本は空間線量率(注1)や浮遊物の呼気による吸入、飲食物の摂取などを勘案し、土壌ではなく人が受ける放射線レベルで退避などの防災基準を判断している」として、現在の避難区域の設定は妥当であるとの見解を示しました。
注1: 環境放射線測定で得られる「1時間あたりの線量(μSv/h)」のこと。
また、原子力安全・保安院も「24時間外にいた場合、避難の基準となる50 mSv(ミリシーベルト)の放射線量を浴びることになるが、普通の人の場合はそういうことにならない」と指摘。実際には、普通の人が外にいる時間は8時間程度と仮定すると、浴びる放射線量も避難基準値の半分ぐらいになる、と説明したとのことです。
この問題を論じる前に、法律上の「一般公衆の線量限度」と、医学的に設定されるべき「一般公衆の線量限度」を整理したいと思います。
まず、「一般公衆の線量限度」は法律(「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」)では、実効線量で年間1 mSvと定められています。屋内退避及び避難の判断基準となる線量については、外部被ばくによる予測実効線量(注2)でそれぞれ10-50 mSv及び50 mSv以上となっています。
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/bousin/bousin003/siryo6.pdf
注2: 防護活動又は復旧対策をとらない場合に予測される線量。
医学的には、実効線量250 mSv以下であれば確定的影響はまず見られません。100 mSvの被ばくにより、発がんリスクが0.5%上昇すると考えていますが、それ以下では、はっきりとしたリスクの上昇は観測されていません。
非常にゆっくりと被ばくする場合には、瞬時に同じ量を被ばくするよりも、効果が弱まることも想定されます。したがって私たちは、乳幼児も含め、実効線量100 mSvの被ばく量を医学的な線量限度の指標の一つと考えています。
ただし、妊娠中の方に対しては、もっと厳しい基準を設けるべきです。専門家の間でも議論はありますが、妊婦の方に安心していただけるよう、妊娠中の被ばく線量限度を10 mSv以下にすべきであると考えています。(国際放射線防護委員会レポート84)
http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%2084
それでは、これまで飯舘村で観測された環境放射線測定データを見てみましょう。東大の早野龍五先生が毎日更新してくれています(http://plixi.com/p/88495151 いつも有難うございます)。
昨日までの積算線量(放射線の総量)は、すでに「公衆被ばく」の上限(一般の人の被ばくの上限)である1 mSvを超えていることがわかります。しかし、まだ10 mSv未満です(私たちが考えている、妊婦の被ばく線量の限度が10 mSvです)。
またこの積算線量は、原発事故が起こってからこれまでの間、“環境測定モニタの近くにずっといた場合”ですので、住民の皆様の実際の外部被ばく量より少し多めに見積もっていることになるでしょう。また、今後、原発から放射性物質の大きな飛散がなければ、放射線もどんどん少なくなっていくと考えられます。
ただし、注意しておくことがあります。一つは“放射性セシウムの影響”です。上記の図(環境放射線測定データ)では、時間が経つにつれ、1時間あたりの線量がどんどん小さくなっていることがわかります。
これは、放射性ヨウ素が、「崩壊」によって放射線を出しながら、どんどん少なくなっていることが原因と考えられます。放射性ヨウ素131(I-131)は8日で半分になります(半減期が8日)。したがって原発からの放射性物質の飛散がない状態が1〜2ヶ月も続けば、I-131は考える必要がなくなります。
それに変わって環境放射線で支配的になってくるのが“放射性セシウム”の放射線です。放射性セシウム134(Cs-134)と放射性セシウム137(Cs-137)の数が半分になる時間は、それぞれ2年と30年であるため、I-131よりも長い期間、環境に影響を及ぼすことになるのです。
http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/
早野先生のツイートもぜひご覧下さい。
もう一つ注意すべきことは、環境放射線測定データだけでは“内部被ばく” の寄与が見積もられていないという点です。
内部被ばくには、飲食物や呼吸による摂取、皮膚からの吸収などがあります。飯舘村における内部被ばくの影響について、私たちteam_nakagawaは、データを用いた数値化がまだできておりません。
そこで、1986年にチェルノブイリで起こった原発事故における、ベラルーシ・ホメリ地域(原発から200km程度の距離)の方々の「内部被ばく」と「外部被ばく」がほぼ等しい、という解析をここでは採用することにします。
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf
この仮定に立って、内部被ばくまで考慮した場合、飯舘村の実効線量はすでに10 mSvを超えているおそれがあります。これまでの記述の中で、私たちは、外部被ばくを少し多めに見積もっていると述べました。しかし、飯舘村の中でも、位置によって環境放射線に差が出ていることも考えられ、その最も放射線量が高い場所では、実際に実効線量が10 mSv程度になっている方がおられる可能性があります。
もちろん現時点で、私たちは、この数値(放射線量)の被ばくが、一般の方々の健康に影響を及ぼすとは考えていません。しかし、妊婦の方に対しては、万が一のことを考え、政府や関係機関が対策を検討すべき観測量に達していると思います。
今後、放射性セシウムの量により、環境放射線の減少幅が少なくなってくることが予想されます(放射性ヨウ素は半減期8日で半分になっていきますが、放射性セシウムは半減期が2年あるいは30年と長いため、なかなかセシウムが減少しないのです
http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/)。
ヨウ素やセシウムの他に、ここではまだ考慮していない核種(放射性物質)の存在もあります。また、文科省が、継続して観測してきた、多くの地点での取得データを解析すると、原発から同じ距離を離れても、飯舘村のように高い環境放射線を計測する地点もあり、そうでない地点もあることが、よくわかってきました。こうした点を認識し、政府や関係機関は今後の対応を協議していく必要があるでしょう。
以下は、東大病院で放射線治療を担当するチームの見解です。
一昨日(2011年3月31日)、一部が福島第一原発30km圏内に含まれる飯舘村の住民全員を、退避させるか否かで議論が沸き起こり、戸惑われた方も多くいらっしゃると思います。
発端は、国際原子力機関(IAEA)が、「飯舘村で観測された放射性物質の量は、避難基準を上回っている」とし、飯舘村の状況を注視していくよう、日本政府や関係する機関に促したことにあります。
(4月1日の発表では、3月19日から29日の間の平均では、避難基準内と発表リンク)
これを受けて、原子力安全委員会は、「日本は空間線量率(注1)や浮遊物の呼気による吸入、飲食物の摂取などを勘案し、土壌ではなく人が受ける放射線レベルで退避などの防災基準を判断している」として、現在の避難区域の設定は妥当であるとの見解を示しました。
注1: 環境放射線測定で得られる「1時間あたりの線量(μSv/h)」のこと。
また、原子力安全・保安院も「24時間外にいた場合、避難の基準となる50 mSv(ミリシーベルト)の放射線量を浴びることになるが、普通の人の場合はそういうことにならない」と指摘。実際には、普通の人が外にいる時間は8時間程度と仮定すると、浴びる放射線量も避難基準値の半分ぐらいになる、と説明したとのことです。
この問題を論じる前に、法律上の「一般公衆の線量限度」と、医学的に設定されるべき「一般公衆の線量限度」を整理したいと思います。
まず、「一般公衆の線量限度」は法律(「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」)では、実効線量で年間1 mSvと定められています。屋内退避及び避難の判断基準となる線量については、外部被ばくによる予測実効線量(注2)でそれぞれ10-50 mSv及び50 mSv以上となっています。
http://www.nsc.go.jp/senmon/shidai/bousin/bousin003/siryo6.pdf
注2: 防護活動又は復旧対策をとらない場合に予測される線量。
医学的には、実効線量250 mSv以下であれば確定的影響はまず見られません。100 mSvの被ばくにより、発がんリスクが0.5%上昇すると考えていますが、それ以下では、はっきりとしたリスクの上昇は観測されていません。
非常にゆっくりと被ばくする場合には、瞬時に同じ量を被ばくするよりも、効果が弱まることも想定されます。したがって私たちは、乳幼児も含め、実効線量100 mSvの被ばく量を医学的な線量限度の指標の一つと考えています。
ただし、妊娠中の方に対しては、もっと厳しい基準を設けるべきです。専門家の間でも議論はありますが、妊婦の方に安心していただけるよう、妊娠中の被ばく線量限度を10 mSv以下にすべきであると考えています。(国際放射線防護委員会レポート84)
http://www.icrp.org/publication.asp?id=ICRP%20Publication%2084
それでは、これまで飯舘村で観測された環境放射線測定データを見てみましょう。東大の早野龍五先生が毎日更新してくれています(http://plixi.com/p/88495151 いつも有難うございます)。
昨日までの積算線量(放射線の総量)は、すでに「公衆被ばく」の上限(一般の人の被ばくの上限)である1 mSvを超えていることがわかります。しかし、まだ10 mSv未満です(私たちが考えている、妊婦の被ばく線量の限度が10 mSvです)。
またこの積算線量は、原発事故が起こってからこれまでの間、“環境測定モニタの近くにずっといた場合”ですので、住民の皆様の実際の外部被ばく量より少し多めに見積もっていることになるでしょう。また、今後、原発から放射性物質の大きな飛散がなければ、放射線もどんどん少なくなっていくと考えられます。
ただし、注意しておくことがあります。一つは“放射性セシウムの影響”です。上記の図(環境放射線測定データ)では、時間が経つにつれ、1時間あたりの線量がどんどん小さくなっていることがわかります。
これは、放射性ヨウ素が、「崩壊」によって放射線を出しながら、どんどん少なくなっていることが原因と考えられます。放射性ヨウ素131(I-131)は8日で半分になります(半減期が8日)。したがって原発からの放射性物質の飛散がない状態が1〜2ヶ月も続けば、I-131は考える必要がなくなります。
それに変わって環境放射線で支配的になってくるのが“放射性セシウム”の放射線です。放射性セシウム134(Cs-134)と放射性セシウム137(Cs-137)の数が半分になる時間は、それぞれ2年と30年であるため、I-131よりも長い期間、環境に影響を及ぼすことになるのです。
http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/
早野先生のツイートもぜひご覧下さい。
もう一つ注意すべきことは、環境放射線測定データだけでは“内部被ばく” の寄与が見積もられていないという点です。
内部被ばくには、飲食物や呼吸による摂取、皮膚からの吸収などがあります。飯舘村における内部被ばくの影響について、私たちteam_nakagawaは、データを用いた数値化がまだできておりません。
そこで、1986年にチェルノブイリで起こった原発事故における、ベラルーシ・ホメリ地域(原発から200km程度の距離)の方々の「内部被ばく」と「外部被ばく」がほぼ等しい、という解析をここでは採用することにします。
http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf
この仮定に立って、内部被ばくまで考慮した場合、飯舘村の実効線量はすでに10 mSvを超えているおそれがあります。これまでの記述の中で、私たちは、外部被ばくを少し多めに見積もっていると述べました。しかし、飯舘村の中でも、位置によって環境放射線に差が出ていることも考えられ、その最も放射線量が高い場所では、実際に実効線量が10 mSv程度になっている方がおられる可能性があります。
もちろん現時点で、私たちは、この数値(放射線量)の被ばくが、一般の方々の健康に影響を及ぼすとは考えていません。しかし、妊婦の方に対しては、万が一のことを考え、政府や関係機関が対策を検討すべき観測量に達していると思います。
今後、放射性セシウムの量により、環境放射線の減少幅が少なくなってくることが予想されます(放射性ヨウ素は半減期8日で半分になっていきますが、放射性セシウムは半減期が2年あるいは30年と長いため、なかなかセシウムが減少しないのです
http://tnakagawa.exblog.jp/15135577/)。
ヨウ素やセシウムの他に、ここではまだ考慮していない核種(放射性物質)の存在もあります。また、文科省が、継続して観測してきた、多くの地点での取得データを解析すると、原発から同じ距離を離れても、飯舘村のように高い環境放射線を計測する地点もあり、そうでない地点もあることが、よくわかってきました。こうした点を認識し、政府や関係機関は今後の対応を協議していく必要があるでしょう。
ラベル: 社会
0 件のコメント:
コメントを投稿
登録 コメントの投稿 [Atom]
<< ホーム