武田先生のご意見
規制値の再整理
「放射線は体に良い」、「20ミリまで大丈夫」、はては「核実験の時には今より放射線物質が多かった」など、いかがわしい話が横行しています.
まるで今まで何も検討されてこなかったというような報道が行われています。
そこで、ここで放射性物質の規制値を再整理しておきます.
この規制値は、私が勝手に決めたわけではなく、「国際勧告」と「国内法」で決まっているものです。
また、テレビで「専門家」という人が登場し、「一般人で100ミリまで良い」などと発言していますが、ここに示す値はその人達が決めたものです。
決定に当たっては、もちろん膨大なデータをもとに1970年代から20年かけて「今、テレビに出ている専門家」が多く参加して議論をし、1990年にハッキリ決まり、それから20年間も守ってきたものです。
また、福島原発が起こったから、日本人が急に放射線に強くなったということはありません。
・・・・・・・・・低い方から・・・・・・
まず、まとめますと次の7段階です。
1. 1年20マイクロシーベルト
2. 1年50マイクロシーベルト
3. 1年0.1ミリシーベルト(=1年100マイクロシーベルト)
4. 1年1ミリシーベルト(=1年1000マイクロシーベルト)
5. 1年5ミリぐらい(おおよそ)(=1年5000マイクロシーベルトぐらい)
6. 1年20ミリシーベルト(=1年2万マイクロシーベルト)
7. 1年50ミリシーベルト(=1年5万マイクロシーベルト)
1.
1年20マイクロシーベルト
文科省が決めている「クリアランス・レベル」というもので、「これ以下なら過去に放射線に接していても、普通のものとして扱って良い」という数値。
これに反すると懲役1年以下の犯罪で、現在の文科省の言動は、自分で作った法律に違反して犯罪を犯している。私もこのクリアランス・レベルの検討に参加していた。
今、テレビで「100ミリまで安全」と言っているある組織の専務理事のところで決まったもの。
2.
1年50マイクロシーベルト
放射線の影響がほとんどなく、あまり気にしなくても良いレベル。原発の境界などはこの線量を守ることが求められていた。
これも公的な数字で、福島原発事故が起こる前には盛んに使われていたが、今では隠されている.
原発関係社は50マイクロのことを良く知っていて、原発に見学に行くと「被曝限度は1年に1ミリですが、原発は50マイクロを守っています。だから20倍、安全です」と広報していた。
3.
1年0.1ミリシーベルト
ICRPの国際勧告の10分の1で、ECRR(欧州放射線防護委員会)が国際的基準として求めているもの。
ICRPとの差は、放射線で発生するガンについてのデータの見方が違うため(ヨーロッパの方がガンに対して厳しいので10分の1になっている).
「日本の基準値は厳しすぎる」という専門家がいるが、それは間違いで、これでわかるようにヨーロッパは現在の国際勧告の10分の1の値を求めている。まだ世界を説得出来ないので、ICRPはこの値の10倍を採用している.
4.
1年1ミリシーベルト
ICRPの国際勧告の中心をなす値で、「我慢できる限度」ということで定められている。例えば、交通事故は1年で約5000人が死亡するが、だからと言って外出を控えるということはしない。つまり、この社会は危険性がある程度あることを承知で行動をすることから決まっている。
1年1ミリシーベルトを被曝すると、1億人で5000人のガン+遺伝性異常が発生すると考えられている.これが世界の専門家のコンセンサスである。
もちろん極めて膨大なデータと専門家の議論に基づいているので、今更1年1ミリの根拠を説明してくれといっても、それは無理である。普通の人が勉強して、この1年1ミリを理解するためには3年ぐらいはかかる。
ところで、放射線の規制については、ICRPの勧告で、国際的にどの国も同じ数値を使っている。
その理由は、
1). 海外旅行したときに、どこかの国に行くと被曝をしてしまうのは危険であること、
2). 国際的に輸出入をするためには、製品の安全性を保つこと
3) 海外に転勤命令が出た時に、相手の国と自分の国の基準が同じでなければならないこと
等から、放射線の基準値は国際的に決めてから、国内法を検討する手順になっている。
今、福島で「100ミリまで大丈夫」と言っている学者などは、ICRPの委員で決定に参加している.また、ICRPの勧告に基づいて国内法を決める時には、今、テレビに出たり、新聞でコメントしているほとんどの専門家が参加している.
だから、「人がガンになるのは3分の1・・・」とか、「核実験の時には・・・」などという新聞記事を書いた記者は誰から聞いたのか、その人を特定する必要がある。
5.
1年5ミリぐらい(おおよそ)
日本では、1年に1ミリシーベルトを守るために、多くの法律ができているが、その中心となるものが「管理区域」という概念である。
「管理区域」というのは、世の中の役に立つために放射性物質やレントゲンを使わなければならないので、そのような場所を限定して安全を確保しているからだ。
だから、管理区域にずっと生活していると1年に5ミリシーベルとぐらいの被曝を受けることになるが、人間はずっと管理区域にいることがないので、少し高めの値が設定されている。
私たちが病院に行くと、レントゲン室に放射線のマークが貼ってあるが、それが管理区域である。現在の福島の多くの場所が管理区域以上の放射線の強さであるので、早く表示をしなければならない。
6.
1年20ミリシーベルト
職業的に放射線を浴びる人の基準である。職業的に被曝ということは、
第1に、成人男性であること、
第2に、自分の意思で職業に就いているので、放射線で被曝するのが嫌だったらその職業やめればいいからであること、
第3に、被曝量を測定すること、
第4に、白血球の減少(白血病ではない)等の健康診断を定期的に受けること、
の条件がついている。
子供はもちろん職業的に放射線を浴びるところにいることはできないし、また妊娠している女性については職業的であっても特例が設けられている。
現実に「20ミリ制限で働いている人」の平均的な被曝量は1年に0.7ミリシーベルトである。従って、今のところ日本では集団として見た場合、「平均的に1年1ミリシーベルト以上の環境に曝されている人はいない」ということで、これは注意を要する.
子供は3倍ぐらい感度が高いので、この職業人の考え方を取れば、
1) 子供と妊婦、近いうちに妊娠希望の女性は7ミリで、
2) 被曝量を測定し、健康診断を受ける、
3) 被曝量が多くなったら、そこから移動する、
という考え方もある。
なお、ICRPが事故時には「1ミリから20ミリ」というのは、「20ミリ被曝しても良い」というのではなく、「事故時でも無限に被曝してはいけない.被曝量は20ミリに制限し、早くその状態を離脱すること」ということである。
7.
1年50ミリシーベルト
職業的な理由で、どうしても大量の被曝を避けることができない場合、1年に50ミリシーベルトまで認められている。しかし、5年間で100ミリシーベルト(1年平均では20ミリシーベルト)という制限があるので、1年に50ミリシーベルト被曝した人は、その他の4年間で調整して、5年間の合計で100ミリシーベルトにしなければならない。
以上のことから判るように、中心的な基準となっている「1年に1ミリシーベルト」というのは、それほど低い値ではありません。
また、原則的には、1年に「大人で、被曝量を測定し健康診断があり、自主的(職業的)に被曝」の場合でも、20ミリシーベルト以上の被曝は認められていません。
軍隊とか非常時は全く別の考え方なので一緒に議論することは出来ません。
また医療用に受ける放射線量については全く別の考え方をとっています。つまり、お医者さんは患者さんの足が腐ってくると、足の切断手術をすることができますが、だからと言って、日常的に一般人が人の足を切断してい良いということではありません。
傷害罪になります。
医療では、医師が患者さんの全体を考えて被曝による損害があってもそれ以上の必要性があれば、患者に被曝させることがあります。これは足の切断手術と同じことです。
その点で官房長官や保安院が、一般の人の被ばく量と CT スキャン等の医療用の被曝を比較したことは誠に不見識でした。
政府がこんなことをしてはいけません。
・・・・・・・・・
ところで、野菜や魚などの基準は、日本はそれほど甘いわけではありません。おおよそ国際的な基準に沿っているということが言えます。
しかし、原発事故が起こってから水の基準だけは、もともと甘かったのに、さらに30倍に引き上げられました。
もともと、WHO の基準が1リットル1ベクレル(ヨウ素)ですが、日本の基準は10倍でした。
それをさらに原発事故で300倍まで上げたので、これははっきりと根拠を説明しておかなければなりません。
ちなみにヨーロッパは厳しい基準で、ドイツは0.5ベクレル、アメリカは0.1ベクレルです。
従ってこのブログでは、一般の食材については規制値をもとに考えますが、水道については、国際基準との関係も見ながら計算を進めていきたいと思っています。
つまり、私は「売り上げ確保、利権、風評、パニック、パフォーマンス」等とは関係なく、子供の健康だけを考えて計算を進めていくつもりです。
(平成23年5月1日 午前10時 執筆)
武田邦彦
「放射線は体に良い」、「20ミリまで大丈夫」、はては「核実験の時には今より放射線物質が多かった」など、いかがわしい話が横行しています.
まるで今まで何も検討されてこなかったというような報道が行われています。
そこで、ここで放射性物質の規制値を再整理しておきます.
この規制値は、私が勝手に決めたわけではなく、「国際勧告」と「国内法」で決まっているものです。
また、テレビで「専門家」という人が登場し、「一般人で100ミリまで良い」などと発言していますが、ここに示す値はその人達が決めたものです。
決定に当たっては、もちろん膨大なデータをもとに1970年代から20年かけて「今、テレビに出ている専門家」が多く参加して議論をし、1990年にハッキリ決まり、それから20年間も守ってきたものです。
また、福島原発が起こったから、日本人が急に放射線に強くなったということはありません。
・・・・・・・・・低い方から・・・・・・
まず、まとめますと次の7段階です。
1. 1年20マイクロシーベルト
2. 1年50マイクロシーベルト
3. 1年0.1ミリシーベルト(=1年100マイクロシーベルト)
4. 1年1ミリシーベルト(=1年1000マイクロシーベルト)
5. 1年5ミリぐらい(おおよそ)(=1年5000マイクロシーベルトぐらい)
6. 1年20ミリシーベルト(=1年2万マイクロシーベルト)
7. 1年50ミリシーベルト(=1年5万マイクロシーベルト)
1.
1年20マイクロシーベルト
文科省が決めている「クリアランス・レベル」というもので、「これ以下なら過去に放射線に接していても、普通のものとして扱って良い」という数値。
これに反すると懲役1年以下の犯罪で、現在の文科省の言動は、自分で作った法律に違反して犯罪を犯している。私もこのクリアランス・レベルの検討に参加していた。
今、テレビで「100ミリまで安全」と言っているある組織の専務理事のところで決まったもの。
2.
1年50マイクロシーベルト
放射線の影響がほとんどなく、あまり気にしなくても良いレベル。原発の境界などはこの線量を守ることが求められていた。
これも公的な数字で、福島原発事故が起こる前には盛んに使われていたが、今では隠されている.
原発関係社は50マイクロのことを良く知っていて、原発に見学に行くと「被曝限度は1年に1ミリですが、原発は50マイクロを守っています。だから20倍、安全です」と広報していた。
3.
1年0.1ミリシーベルト
ICRPの国際勧告の10分の1で、ECRR(欧州放射線防護委員会)が国際的基準として求めているもの。
ICRPとの差は、放射線で発生するガンについてのデータの見方が違うため(ヨーロッパの方がガンに対して厳しいので10分の1になっている).
「日本の基準値は厳しすぎる」という専門家がいるが、それは間違いで、これでわかるようにヨーロッパは現在の国際勧告の10分の1の値を求めている。まだ世界を説得出来ないので、ICRPはこの値の10倍を採用している.
4.
1年1ミリシーベルト
ICRPの国際勧告の中心をなす値で、「我慢できる限度」ということで定められている。例えば、交通事故は1年で約5000人が死亡するが、だからと言って外出を控えるということはしない。つまり、この社会は危険性がある程度あることを承知で行動をすることから決まっている。
1年1ミリシーベルトを被曝すると、1億人で5000人のガン+遺伝性異常が発生すると考えられている.これが世界の専門家のコンセンサスである。
もちろん極めて膨大なデータと専門家の議論に基づいているので、今更1年1ミリの根拠を説明してくれといっても、それは無理である。普通の人が勉強して、この1年1ミリを理解するためには3年ぐらいはかかる。
ところで、放射線の規制については、ICRPの勧告で、国際的にどの国も同じ数値を使っている。
その理由は、
1). 海外旅行したときに、どこかの国に行くと被曝をしてしまうのは危険であること、
2). 国際的に輸出入をするためには、製品の安全性を保つこと
3) 海外に転勤命令が出た時に、相手の国と自分の国の基準が同じでなければならないこと
等から、放射線の基準値は国際的に決めてから、国内法を検討する手順になっている。
今、福島で「100ミリまで大丈夫」と言っている学者などは、ICRPの委員で決定に参加している.また、ICRPの勧告に基づいて国内法を決める時には、今、テレビに出たり、新聞でコメントしているほとんどの専門家が参加している.
だから、「人がガンになるのは3分の1・・・」とか、「核実験の時には・・・」などという新聞記事を書いた記者は誰から聞いたのか、その人を特定する必要がある。
5.
1年5ミリぐらい(おおよそ)
日本では、1年に1ミリシーベルトを守るために、多くの法律ができているが、その中心となるものが「管理区域」という概念である。
「管理区域」というのは、世の中の役に立つために放射性物質やレントゲンを使わなければならないので、そのような場所を限定して安全を確保しているからだ。
だから、管理区域にずっと生活していると1年に5ミリシーベルとぐらいの被曝を受けることになるが、人間はずっと管理区域にいることがないので、少し高めの値が設定されている。
私たちが病院に行くと、レントゲン室に放射線のマークが貼ってあるが、それが管理区域である。現在の福島の多くの場所が管理区域以上の放射線の強さであるので、早く表示をしなければならない。
6.
1年20ミリシーベルト
職業的に放射線を浴びる人の基準である。職業的に被曝ということは、
第1に、成人男性であること、
第2に、自分の意思で職業に就いているので、放射線で被曝するのが嫌だったらその職業やめればいいからであること、
第3に、被曝量を測定すること、
第4に、白血球の減少(白血病ではない)等の健康診断を定期的に受けること、
の条件がついている。
子供はもちろん職業的に放射線を浴びるところにいることはできないし、また妊娠している女性については職業的であっても特例が設けられている。
現実に「20ミリ制限で働いている人」の平均的な被曝量は1年に0.7ミリシーベルトである。従って、今のところ日本では集団として見た場合、「平均的に1年1ミリシーベルト以上の環境に曝されている人はいない」ということで、これは注意を要する.
子供は3倍ぐらい感度が高いので、この職業人の考え方を取れば、
1) 子供と妊婦、近いうちに妊娠希望の女性は7ミリで、
2) 被曝量を測定し、健康診断を受ける、
3) 被曝量が多くなったら、そこから移動する、
という考え方もある。
なお、ICRPが事故時には「1ミリから20ミリ」というのは、「20ミリ被曝しても良い」というのではなく、「事故時でも無限に被曝してはいけない.被曝量は20ミリに制限し、早くその状態を離脱すること」ということである。
7.
1年50ミリシーベルト
職業的な理由で、どうしても大量の被曝を避けることができない場合、1年に50ミリシーベルトまで認められている。しかし、5年間で100ミリシーベルト(1年平均では20ミリシーベルト)という制限があるので、1年に50ミリシーベルト被曝した人は、その他の4年間で調整して、5年間の合計で100ミリシーベルトにしなければならない。
以上のことから判るように、中心的な基準となっている「1年に1ミリシーベルト」というのは、それほど低い値ではありません。
また、原則的には、1年に「大人で、被曝量を測定し健康診断があり、自主的(職業的)に被曝」の場合でも、20ミリシーベルト以上の被曝は認められていません。
軍隊とか非常時は全く別の考え方なので一緒に議論することは出来ません。
また医療用に受ける放射線量については全く別の考え方をとっています。つまり、お医者さんは患者さんの足が腐ってくると、足の切断手術をすることができますが、だからと言って、日常的に一般人が人の足を切断してい良いということではありません。
傷害罪になります。
医療では、医師が患者さんの全体を考えて被曝による損害があってもそれ以上の必要性があれば、患者に被曝させることがあります。これは足の切断手術と同じことです。
その点で官房長官や保安院が、一般の人の被ばく量と CT スキャン等の医療用の被曝を比較したことは誠に不見識でした。
政府がこんなことをしてはいけません。
・・・・・・・・・
ところで、野菜や魚などの基準は、日本はそれほど甘いわけではありません。おおよそ国際的な基準に沿っているということが言えます。
しかし、原発事故が起こってから水の基準だけは、もともと甘かったのに、さらに30倍に引き上げられました。
もともと、WHO の基準が1リットル1ベクレル(ヨウ素)ですが、日本の基準は10倍でした。
それをさらに原発事故で300倍まで上げたので、これははっきりと根拠を説明しておかなければなりません。
ちなみにヨーロッパは厳しい基準で、ドイツは0.5ベクレル、アメリカは0.1ベクレルです。
従ってこのブログでは、一般の食材については規制値をもとに考えますが、水道については、国際基準との関係も見ながら計算を進めていきたいと思っています。
つまり、私は「売り上げ確保、利権、風評、パニック、パフォーマンス」等とは関係なく、子供の健康だけを考えて計算を進めていくつもりです。
(平成23年5月1日 午前10時 執筆)
武田邦彦
ラベル: 社会
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