2011年4月12日火曜日

日刊サイゾーより

伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ギョーカイの内部情報を拾い上げ、磨きをかけた秘話&提言。

 福島第一原発事故以降、メディアの現場でもそのスタンスが問われかねない"事件"が起こっている。その最たるものが「週刊新潮」(新潮社/4月7日号)で報じられた共同通信福島支局の現場放棄事件だ。爆発事故をテレビで見た東京の社会部幹部が、福島支局員たちの県外退避を指示、一時、福島市にある共同の福島支局が不在になる異常事態となったというもの。「新潮」も「ニュースの担い手が真っ先に逃げたら、パニックを増長する」と苦言を呈した。

 だが、これにはさらなるトンデモ後日談があった。

「退避後、共同上層部が『すぐに戻れ』と指示を撤回し、支局長以下支局員たちは福島に戻りました。この職場放棄事件はもちろん、福島の他テレビ・新聞社にも知れわたっていた。そのため、福島支局長は仕方なく記者クラブで関係者に謝って回ったんです。その際、支局長は首にガイガーカウンター(放射線量測定器)をぶら下げていて、さらなるひんしゅくを買ったんです」(大手紙社会部関係者)

 市民にさえも避難勧告が出されていない中、日本を代表する通信社の"放射能パニック"は大ひんしゅくモノだ。中には「あんたら(共同通信)は原発を推進してきた張本人だろう」と言い放つ関係者もいたという。というのも、数年前、共同は電通と組んで「原発は安全」というPR広告を共同加盟社に流した"前科"があるからだ。

 その後、この支局長には自宅待機の処分が言い渡された。だが、この処分も支局長にとってはラッキーなことだったという。

「支局長の自宅は東京ですからね(笑)。福島から離れて放射能の恐怖から逃れられたと思ったのか、なんだかうれしそうにも見えました。その後、支局長は校閲部に左遷されましたが、直後に銀座で行われた脱原発デモに参加し、写真を自分のTwitterにアップまでしていた」(同大手紙関係者)

 なんともはや、である。だがこの事態を招いたA級戦犯は「独断でパニックになり現場を混乱させた社会部幹部A氏」(某大手通信関係者)だ。

「支局長が更迭されたのに、Aさんがなぜ処分できないのかと、社内でも不満を漏らす記者は多い。Aさんは爆発直後からパニック状態になり、避難指示の前も『一人の被爆者も出すな!』『水は絶対飲むな』『支局から出るな』と、とんでもない指示を出しまくっていた。社内でも『Aさんがメルトダウンした』と嘲笑されていました」(前同)

 しかし、共同の体たらくを報じた「新潮」も、彼らを批判する資格などない。原発事故以降の「新潮」を見ると、東電批判が一切ないという異常事態が続いているからだ。いや、批判しないどころか、東電社員の美談を掲載する始末。その理由はもちろん「広告」だ。

「これまでテレビはもちろん新聞・雑誌など多くのメディアは、東電、そして各電気会社の連合会である電事連から莫大な広告出稿という恩恵にあずかってきました。東電だけで年間220億円以上もの広告費が垂れ流されていた。ゆえにめったなことで東電批判はしない、タブーとなっていた」(メディア事情に詳しい関係者)

 そのため原発事故当初、多くのメディアはあからさまな東電批判を控える傾向にあった。しかし事態は長期化し、放射能汚染が続くと、そんな平時の論理は通用しなくなった。さらに「東電という企業が今のまま存続しないのではないか」(前同関係者)という、何ともご都合主義的な判断から、雑誌メディアを中心に東電批判も展開されるようになる。そんな中、「新潮」だけが一貫して東電批判を控えているのだ。

「逆に言えば、手のひら返しをするメディアに比べ一貫しているのかもしれません。もちろん皮肉ですが(笑)。『新潮』はかつて批判していた阿含宗の広告をいつの間にか掲載していたり、パチンコメーカーに擦り寄るなど、広告に関しては商業主義丸出しでしたからね。しかも、今回の地震では千葉にある倉庫でスプリンクラーが誤作動し、出荷直前の書籍が水浸しになる大損害を被ったと言われています。事態が収束した後、また東電から広告をもらおうとする意図がミエミエ」(前同)

 今回の大震災・原発事故が硬派ジャーナリズムを気取る「新潮」、そして日本を代表する共同通信といったメディアに内在する問題を、見事にあぶり出したと言える。

「しかし、メディアとはいえ企業です。社員(記者)を守り、利益を出すという義務がある。一方で、情報を発信し報道を続けるというメディアとしての使命もある。今回の原発事故は、こうしたバランス・メディアや記者個人のスタンス・存在意義を究極的に試されている事態なのです」(メディア事情に詳しいジャーナリスト)

 骨のないメディアにとっては、頭の痛い日々が続きそうだ。
(文=神林広恵)

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