2008年11月6日木曜日

9・11倶楽部


馳星周の最新作「9・11倶楽部」は、あの石原知事が音頭を取った新宿浄化作戦に焦点を当てた作品だ。

あの作戦で多くの違法入国外国人労働者たちが強制送還を喰らった。
マスコミでは、風俗産業に焦点を当ててこの問題を取り扱ったが、実は別の視点から光を当てることも出来、(そのほうが重要だったのかもしれないが)、そこには日本に取り残された戸籍のない子供たちがいた。

これに対して東京都は細かな対策は打っていなかっただろう。
というより、新宿浄化作戦自体がめちゃくちゃなもので、いうまでもなく中国マフィアまでには手が届かず、形容矛盾に近いが律儀な違法入国者(中国料理店などをやっていた)を直撃した。

ここにわたしの思う核家族ではない擬似家族が生じる契機がある。(彼の小説の中で)
図らずもこの小説の中、わたしの思う擬似家族維持の難しさや彼らがたどり着くしかない連帯を眼にすることになる。

この作品で、わたしの教えられてきた新宿浄化作戦の嘘とあの作戦の乱雑さとその中で生きていこうとした擬似家族の不可能性と不可能性を求めるが故の小説的な美しさを味わった。

ただし残念ながらこの感慨は作品だけではなく、作品とわたしのもっている嗜好の出会いがもたらした面も強くあり、この作品のみを大きく押し出すことは出来ない。
押し出すことは出来ないが、政治がいかに個々の人々を見ないかはよくわかる。
そのことでわたしは早急に政治を責めはしないが、(政治はもともとそういうもの<=個々を見ない>だろうからだ)なんとも非情なものだ。

「笑加」という少女が登場するが、わたしに人を愛する力がまだ残っているのかもしれないと教えてくれるほど可憐で薄幸な少女だった。
彼女と出会うだけで読む価値があるのは、書き付けておいていいだろう。

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