ファム・ファタル
最近、一人の女に電話をかけ続けている。
くせになってしまったのだろう。
真夜中に気がつくと電話をかけているわたしがいる。
だが、電話に女が出ることはない。
もう、日本には戻ってこないかもしれない。
湿った夜だった。
玲は少しの間留守番を頼まれて、カウンターに立っていた。
小一時間の後扉が開いて、男が入ってくる。見たことのある顔だ。
オーダーは決まっていた。Black Deathというウォッカだ。それに氷を少し入れる。
さらにいつの間にか女が居る。美しい女だった。エロティックといってもいい。
一体いつの間に入ってきたのだろう?
扉は鳴らなかったのに。
「何になさいますか」
「カクテルを頂戴」 女は言った。
「ファム・ファタル」
聞いたことのないカクテルだ。
レシピブックを慌ててひっくり返すというような無粋な真似はしたくはなかった。
ファム・ファタルか。
ホワイトキュラソーとレモンジュースに先ほど男が飲んでいたBlack Deathをあわせてシェイクした。
ホワイトレディのBlack Death版だ。
どうぞ。
差し出すグラスを女はじっと見つめた。
「そんなカクテル、あると思わなかった」
「ぼくも知らなかった。」
玲はどうでもいいような口調で告げた。
女は男の隣にすわり、顔を覗き込んだ。
「覚えている? わたし。 」
「・・・…」 男は、ちいさく呟いた。
「覚えていたのね。」
女は笑ってカクテルに口を付けた。
男は黙っていた。口からでまかせの名前でよかったのか…
「ファム・ファタルに名前は要らないの。呼んでさえくれればいいの―」
帰ってきたローラが、半分ほど空いたBlack Deathの瓶を振りながらしゃべっている。
「最近減ってないじゃない。あのお客さん来ないの?」
「ああ、もう来ないかもしれない。」
玲は、中空に答を返した。
くせになってしまったのだろう。
真夜中に気がつくと電話をかけているわたしがいる。
だが、電話に女が出ることはない。
もう、日本には戻ってこないかもしれない。
湿った夜だった。
玲は少しの間留守番を頼まれて、カウンターに立っていた。
小一時間の後扉が開いて、男が入ってくる。見たことのある顔だ。
オーダーは決まっていた。Black Deathというウォッカだ。それに氷を少し入れる。
さらにいつの間にか女が居る。美しい女だった。エロティックといってもいい。
一体いつの間に入ってきたのだろう?
扉は鳴らなかったのに。
「何になさいますか」
「カクテルを頂戴」 女は言った。
「ファム・ファタル」
聞いたことのないカクテルだ。
レシピブックを慌ててひっくり返すというような無粋な真似はしたくはなかった。
ファム・ファタルか。
ホワイトキュラソーとレモンジュースに先ほど男が飲んでいたBlack Deathをあわせてシェイクした。
ホワイトレディのBlack Death版だ。
どうぞ。
差し出すグラスを女はじっと見つめた。
「そんなカクテル、あると思わなかった」
「ぼくも知らなかった。」
玲はどうでもいいような口調で告げた。
女は男の隣にすわり、顔を覗き込んだ。
「覚えている? わたし。 」
「・・・…」 男は、ちいさく呟いた。
「覚えていたのね。」
女は笑ってカクテルに口を付けた。
男は黙っていた。口からでまかせの名前でよかったのか…
「ファム・ファタルに名前は要らないの。呼んでさえくれればいいの―」
帰ってきたローラが、半分ほど空いたBlack Deathの瓶を振りながらしゃべっている。
「最近減ってないじゃない。あのお客さん来ないの?」
「ああ、もう来ないかもしれない。」
玲は、中空に答を返した。
ラベル: 作品
1 件のコメント:
小説といっても、もうちょっとらしい小説を書かないとな。
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