2009年5月14日木曜日

どこまで考えるか


何事も深く考えずにスイスイとミズスマシのように生きていくひとたちの姿をわたしは認めている。
というか、若干憧れている。
鈍重な自分の在りようと内心比較してのことかもしれない。

そういう連中の話が「田村はまだか」には書かれているのだが、その連中がわたしの思うほど何も考えずに楽に生きているのではないことをこの小説は教えてくれた。

まあ、小説にするくらいだから登場人物は、わたしの思うミズスマシ軍団よりは少々思慮深いのかもしれないが、なるほどこのように考えて、その考えがあるところまで行くとその先には行かず引き返してくるのだということを教えてくれた。

思えば、その先まで考えてみても一人相撲で苦しむだけのことなのだから(考え続ければ、パッと眼前の光景が開かれることがあるのはあるのだが、そしてそのために考え続けるのだが、それは愉快な作業ではないかもしれないし、もっとはっきり言えば自然体で生きる姿勢からは外れているのだろう)、ここらでいらぬ凡慮はやめて、どこかに寝そべって空でも眺めているのがよかろう。

空を眺めるまではいかぬが、それに完全には肩の荷は下ろさぬが、それでもこの小説の登場人物たちは悩みから戻ってくる。
その加減が、なかなかによく書けた小説であり、「来ない田村」と舞台になるスナックの「マスター」の狂言回しが、なかなかに見事だ。

読んでも読まなくてもいい作品だが、書き手なら手に取ったほうがいいかもしれない。

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