2009年6月9日火曜日

雷蔵好み


「雷蔵好み」は村松友視の書いた評伝である。

村松友視氏の書く評伝の質は高い。
質の高さは彼の人を見る目線に確かさがあるからだろう。

特にこの「雷蔵好み」は市川雷蔵と村松友視の人生に重なるものがあり、一流の読み物になっている。
市川雷蔵に少し遅れて映画界に入ってくるのが、勝新太郎であり、勝は市川雷蔵に対しライバル心を燃やしたらしい。
が、そのライバル心は憎しみにつながるものではなく、どこかに仲間意識を持っているものだったという。

この本のなか、その勝と雷蔵の比較に雷蔵の姿はよく現れていると思う。

雷蔵が、なぜあれほどまでに酷薄を演じていながら、やさしげであったかは、この評伝に詳しい。
歌舞伎から始まる雷蔵の人生は、すでにそれ以前に不自然な様相を呈している。
その不自然さの受け取り方に雷蔵があり、そのありように作者村松友視には自分が見え隠れするのだろう。

確かに、スターというものがあったころも、タレントとなってしまった今も、雷蔵のような心持で人生を紡いでいった人は少なかろう。
おそらくは、指をひとつも折れないかもしれない。

そういったものが、今でも雷蔵の映画を眺めるときに静かにこちら側へと流れてくる。
雷蔵はたゆまなく静かにその泉からの水を湧き出させ続ける。

いまだに雷蔵が人の言の葉に上るのはそういったことなのだろう。

雷蔵は早世する。
1969年、市川雷蔵は37歳で肝臓がんのため、この世を去っている。

不世出といっていいのかもしれない。

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