2010年3月4日木曜日

コルシア書店の仲間たち

「コルシア書店の仲間たち」の最後に須賀敦子は書いている。
「コルシア・デイ・セルヴィ書店をめぐって、私たちは、ともするとそれを自分たちが求めている世界そのものであるかのように、あれこれと理想を思い描いた」

そして、その仲間の一人と結婚した須賀さんは、十年も経たないうちに彼と死別する。
そのこともこの本で触れられるが、過剰な書き方はしない。
須賀さんの文体はいつも物静かで、たくらみを感じさせない。
(もちろん彼女には十分なたくらみがあるのだが、それも静かに流れていく)

作品はこう結ばれる。
 「若い日に思い描いたコルシア・デイ・セルヴィ書店を徐々に失うことによって、私たちは少しずつ、孤独が、かつて私たちを恐れさせたような荒野でないことを知ったように思う」

なんとなく涙がこぼれそうになる。
こういうときしかないのだろう。
人がふと涙を流すのは。

人が涙流すときさえも奪う喧騒の時代、この場所。
ときにわたしは自分の置かれた状況をうらむ、うらむ対象もなく。

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