エゴセントリック プレディカメント
だれでもが苦脳を持っている。
もしあなたが自分の苦悩を意識していないとしても、あなたの意識があなたの手の下へ戻ってきさえすれば、苦悩はいつかあなたの眼前に顔を出すだろう。
たとえそれがこの世のうちではないにしても。
しかし、もしそうだとしても、そのことを少しも気に病む必要はない。
もちろん、本人である私やあなたはその苦悩にときとしてダイレクトに向かい、悩みの真っ只中に放り出されてしまうのかもしれないが、それでも気にする必要はないのだと思う。
その苦悩がよそから与えられたものでなく、自分が生み出したものであるならば、いつかはその苦悩とさえ親しく酒を酌み交わせるのではないのかと、わたしは密かに思っているのです。
お察しの通り、いま、わたしはすこぶる調子がいい。
だから、こういう風に思えるのだろう。
それでもわたしの極度の不眠のなかでの生活を考えれば、多くの幸運に支えられて夜空のホームズ彗星を見ることのできるこの機会を逃さぬように、ここにその思いを書きとめておきたく思います。
苦悩と親しく酒を酌み交わす仕合せな状態が実際にはどのようなものであるのか、実はうまくイメージができないのですが、そういう予感があるとだけ知っておいてください。
苦悩もまた私が生み出したものであるならば、闇雲に切り捨てることなく懐深く抱え込んで自他の区別をすることなくともに生きていきたい、そのように自分の生きていく世界を形作っておきたいという願いがわたしにはあります。
苦悩もまた他ならぬ私なのです。
ある娘は顔の上にあるほんの小さなキズが自分に落とす影におびえ、ある青年は外から見れば何も変わらぬように見える他者との差の影におびえている、…そういった人たちのことが昨日紹介した上原隆の本には書かれている。
そして、彼らがその苦悩とつき合っていく様子が、愚にもつかない抽象で語られるのではなく、具体的なある日の彼や彼女の姿、それは一瞬の表情やしぐさであったりもするのですが、そのことが書かれているのです。
人はだれでもが、自分中心の視座から世界を眺めています。
その視座をはずして、まったく違う世界を新しく眺めなおすことはとても難しいことです。
もし、あなたやわたしにできることがあるとすれば、自分はおそらく特殊な視座を通して世界を見ているのだろうなという認識です。
それがあなたの生きている世界で、その世界が他ならぬ自分を通して形作られたのだろうという淡い気づきだけです。
そのようにぼんやりと思いながら、それでもなお自分の視座からしか眺められない自分がいる、あなたの視座からしか眺められないあなたがいる、そんなことを今ここに書いています。
そういう世界のなかで生きているのだとしたら、その世界を形作るかけらのひとつに手触りのある、ある場合は持ち重りさえするあなたの苦悩があなたの世界のなかに在ることはとても大切なことだと思います。
あなたの世界以外では何の役にも立たないであろう苦悩、その苦悩があなたの世界を形作る大きなかけらだとしたら、それは決して捨ててはいけないものではないでしょうか。
そういう風にあなたの苦悩をわたしは眺めています。
ごく最近、次のようなニュースが流れました。
○ホームズ彗星
ペルセウス座の方向にあるホームズ彗星が25日までのわずか2日間で約40万倍も明るくなり、肉眼でも観測できるようになりました。
アウトバーストと呼ばれる現象で、彗星の核からチリやガスが一時的に吹きだし、太陽光を反射して明るく輝いているらしい。
今回のような大幅な増光の観測例はなく、各国の天文台も追跡を続けている。
渡部潤一・国立天文台准教授は「研究者としてこれほどの増光に立ち会える機会は一生に一度あるかないか。とても興奮している。観測を通して、現象の解明も進むかもしれない」と話している。
○「メラノーマ」温熱療法
悪性の皮膚がん「メラノーマ」に電磁波をあて、がん細胞を殺す治療法の開発に信州大学が世界で初めて成功しました。
信州大学が研究を進めてきた「メラノーマ」の温熱療法は、酸化鉄の微粒子をがんに注入して電磁波を当てることで患部の温度をあげ、がん細胞だけを殺す世界で初めての治療法です。
こんなニュースをわたしの世界のかけらとして置いてみたい。
とりわけ前のニュースを。
何ものにも邪魔されることなく、わたしはわたしの中で生きていたく思います。
あなたもあなたの世界のなかでひっそりとたたずんでいられればいいのにと願っています。
そうして相手のことなど何もわからぬ者同士として、ふたりで二人の世界を通しながら静かに酒を酌み交わそうではないですか。
そういう夜を過ごしてみたく希求しております。
ラベル: 日常 考察
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