2008年4月10日木曜日

催花雨とイエペスの開放弦

名優の誉れ高いサラ・ベルナールはレストランメニューを読み上げるだけで、同席した人々の涙を引き出したたというまことしやかな作り話が巷間はびこっているが、まあ、そういうことなのだろう、サラ・ベルナールという名優の本質は。

「ナルシソ・イエペスなら開放弦を爪弾いてもわかる」
と言ったのは、池袋の西口と東口を結ぶ小汚い地下道に座り込んでギターを弾いていた兄ちゃんだったが、彼以外の路上クラシックギターライブには出会ったことがない。

金を溜め込んで、スペインに行くと言っていたあの青年はいまはどうしているのだろう。
すでに声だけしか記憶にない青年だが、庭先の催花雨のなかに漂う緑を眺めながら、そんなことを思い出した。
幸せな会話を彼としたように思う。
もうずいぶん前のことだ。

「芸術は神のほほえみである」はイエペスのよく口にしたコトバだが、彼の和音を押さえぬ開放弦もまた「ほほえみ」をもたらしたのだろうか。
私には、彼の開放弦を聞くすべはない。

10弦ギターで世界各地を演奏活動したイエペスを深く愛した青年を思い出す雨の日の物思いであった。

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