いい書き出しだと感心する
「御年さんのことを記したいが、御年さんのことをよく知らない。」
これは『遠景』の書き出しだが、色川武大氏の姿を語ってもいるようで吸い込まれてしまう。
作品の中では、よく知らないわりにはいろいろなことが記されているが、記されているからよく知っているわけではないのだろう。
そういう人との距離感を色川さんは感じさせる。
逆に、よく知らないけれども記すことは出来るのだろうとも思わせる。
色川さんにはそういうことに頓着しないところがある。
頓着はしないが、ぷすぷすと頭のなかでいろいろなものがめぐっている気配がする。
その気配がうまい具合に小説となるには七面倒くさい過程が存在するのだろうが、それらのものを身体の内に溜めて色川さんはぎょろりと大きな目をこちらに向ける。
その目の映すものに何やら恐ろしいやら、見てみたいやらの気持ちとなって引き寄せられていくのだが、それが彼の作品群だ。(『怪しい来客簿』などにわかりやすく見られる)
その手口が、先の書き出しの一文に見られるように思ったのだ。
そう思ったから、ここに書いてみた。
ラベル: 小説
0 件のコメント:
コメントを投稿
登録 コメントの投稿 [Atom]
<< ホーム