2008年3月16日日曜日

タテタカコ



啓蟄の 月夜にガマの 背に光

若者に誘われて渋谷「A TO Z」へ「タテタカコ」の音楽を聴きに行く。
このタテタカコという人が実に感じのいい娘(こ)なのだった。

29歳だと本人が話していたが、話し方にそのまま内面の傷つきやすさが現われていて、よくぞここまでそういう自分を守り通したなあ、と感慨にふけってしまったのですが、その歌声はどこか遠くのものに伝えようとするような、ライブハウスのなかに半分たゆたうような、一端彼女の口から外にこぼれてしまうと、少し奇妙な有り様をするのでした。
ファンであろうその夜の客の中には、その声をとても頼りにするように多少涙ぐみながら見ている人もいたのですが、おそらくタテさん自身もその歌に(それは歌を作ろうとする意志の中か、作り上げていく過程の中か、それとも歌そのものが別の世界に彼女を連れて行くことの中か、よくわかりませんが、それでも確かにその歌に)助けられていた時間があったことを思わせるのでした。

語る言葉も初々しく、29歳のユニセックスのように見えて、確かな女性性を内包した少女は、そこにすわってエレクトーンを弾きながら、どこから溢れだすのか、どぎまぎしてしまうような声を遠くへ近くへ、遠くへ近くへ、そして、そとへうちへと、響かせているのでした。

帰りの家路の途中、どこからどこへ行くのか月夜に照らされた一匹のガマを見かけました。

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