2008年7月31日木曜日

氷水

わたしが、特別にカキ氷が好きな話はしたが、あの氷にかけるシロップはかなり邪悪なもので、食べ終わってそのまましばらく置いておくと赤や緑の色が器に付いていてとれにくい。
このごろは、ときに、これはわたしの太刀打ちできるものではないわいと思ったりしている。

それで、今度は「みぞれ」にして食うかなどと思っているのだ。
みぞれは、昔、「水(すい)」などと気取っていったものだ。
「氷水、すいでちょうだい」てなもんである。

そんなことを思っているうちに菅原さんの詩を思い出してしまった。



「ブラザー軒」 菅原克己 

東一番丁、
ブラザー軒。
硝子簾がキラキラ波うち、
あたりいちめん氷を噛む音。
死んだおやじが入って来る。
死んだ妹をつれて
氷水喰べに、
ぼくのわきへ。
色あせたメリンスの着物。
おできいっぱいつけた妹。
ミルクセーキの音に、
びっくりしながら
細い脛だして
椅子にずり上がる。
外は濃藍色のたなばたの夜。
肥ったおやじは
小さい妹をながめ、
満足気に氷を噛み、
ひげを拭く。
妹は匙ですくう
白い氷のかけら。
ぼくも噛む
白い氷のかけら。
ふたりには声がない。
ふたりにはぼくが見えない。
おやじはひげを拭く。
妹は氷をこぼす。
簾はキラキラ、
風鈴の音、
あたりいちめん氷を噛む音。
死者ふたり、
つれだって帰る、
ぼくの前を。
小さい妹がさきに立ち、
おやじはゆったりと。
東一番丁、
ブラザー軒。
たなばたの夜。
キラキラ波うつ
硝子簾の向うの闇に。

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