2008年8月25日月曜日

読んでいる本のなかに…



読んでいるなかにわたしの見知っているものや人が出てきたケースはいくつかあったが、特別なものは、ふたつである。

ひとつは水上勉の「飢餓海峡」の女主人公、八重が下北の花街から東京に出てきたとき、最初に就職する居酒屋の「埼玉屋」である。
当時の「埼玉屋」は、今のオーナー関根紳太郎のおじいちゃんがやっていたころで、まだあの思い出横丁にバラックの飲み屋がぐじゃぐじゃと集まりだしたころだった。
その様子がよく書けていて、ああ、その「埼玉屋」がこうなったのかと感慨深かった。

もうひとつはおそらく船戸与一がライフワークのように思っているのではないかと推測される「満州国演義」の第三巻「群狼の舞」に出てくる「満州国の財政確立のために大蔵省から営繕管財局国有財産課長・星野直樹」氏である。
この人は、ナイロビでわたしが大変お世話になった星野芳樹氏の長男で星野家では相対立する立場の二人であった。(だからといって、決して兄弟仲が悪いわけではなかった、と星野さんからは聞いている)

本のなかではあるが、こういう出会いがあると、妙な感慨に浸る。
それは、死んだ母親の昔話を聞くような感じでもある。

ところで、これは内心の思いだが、日本という国にとって満州国の建国から滅亡は大きな経験であり、このことが具体的にとって日本にどういう影響を与えたかは単なる読書体験だけでなく、わたしの中にもひとつの意見として立てておきたいという気持ちがあり、少しずつ資料を集めたりもしている。

何であれ、思いをのせる船はほしいものだ。

ラベル: