ゴールデンスランバー
わたしは音楽に疎いものだから「ゴールデンスランバー」がビートルズの曲だとは知らなかった。
「ノルウェイの森」のときもそうだったし、他にも知らずに通り過ぎたものは多いのだろう。
伊坂幸太郎作のこの本は昨年大きな評判を読んだもので既読の方も多くおられるだろう。
得体の知れないわれわれを取り巻くものの存在をカリカチュア化しながらエンターテイメントに仕上げてある。
いい作品だと思う。
われわれの周りを取り巻く、知らず知らずになされている多くのことの情報も与えてくれているし、それぞれのキャラもしっかりと書き込まれている。
しかし、何よりもこの作品が誇っていいのは「吹き寄せ」という技法の完成度である。
「吹き寄せ」とは、色々な色に染まった木の葉が、風で吹き寄せられた様から名づけられた、日本料理の手法のひとつだが、小説におけるそれは、話のなかにあちこちで語られたエピソードや挿話が物語の終わり近くにあっと驚かせるべく姿で集まり立ち現れてくる技法を言う。(まあわたしの個人見解だけどね)
その「吹き寄せ」の見事さがこの小説にはある。
それが、この小説でわれわれの生きている世界の非道さを執拗に描きながらもある種のカタルシスを生み出している秘密だ。
まあいい。
細かい議論はともかく、エンターテイメント小説における「吹き寄せ」という技術を見たければこの本は最良のテキストといってもよいかもしれない。
わたしはそう思っている。
ラベル: 小説
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