天や
二日続いて新宿に出かけるが、都会の刺激に満ち満ちているこの街は、自分のありようを忘れさせてくれる。
良くも悪くも都会は今の世の中をうまく回す装置であり、この装置が回りにくくなってきているこのごろは、人が自分のありように気づく始まりかもしれない。
新宿でのわたしの楽しみは[天や」の天丼を食べることだ。
この天ぷら屋は画期的な店で恐ろしく安い。
もともと天ぷら職人は育ちにくいもので、(それはすし屋と天ぷら屋の数の比率を考えてみてもわかる)その分天ぷらはどの店もお高い。
しかし、「天や」は機械を導入して天ぷら職人を容易に生み出すことに成功した。
出される天ぷらは油の切れ、揚り方を見ても上等なものとは言いがたいが、この値段であれば申し分なかろう。
外食は常に値段との相対関係で評価は決定される。
さて、その天丼だが、キス、イカ、エビ、野菜二種とこんなところが上に乗っているのだが、わたしはどうしても最後にエビを残してしまう。
ぱくりと最初にエビを食べられないのだ。
つまりは、よりおいしいと思われるものを残していき、徐徐に登りつめていく食べ方をする。
こういう食べ方をよくよく考えてみると。
天丼の上に乗る最もおいしくないものを順に次々と食べていくことになる。
逆に最もおいしいと思われるものから食べていけば、常に残された中で最もおいしいものを食べることになる。
とまあ、論理的にはそうだが、いずれ腹に納まるのだからこういう議論は遊びの話にしか過ぎない。
それにしても、何とかして最初に海老天をぱくりとやろうと天やに行くたびに思うのだが、もって生まれた習性だろうか、どうしても最初は野菜天に箸がのびてしまうのだ。
いつの日か海老天から食う。
それが目下のわたしの大いなる野望である。
ラベル: 食べ物
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