2010年2月22日月曜日

酔いどれ犬

『ダブルジョーカー』を読んだ直後に樋口明雄の『酔いどれ犬』を読んでみた。
もちろん書籍となって発売されているのだから、標準を越えるエンターテイメント性をもっている。

けれどもどこかが違う。

気のきいたセリフも出てくるし、登場人物に魅力もある。
ストーリーも滞りなく進行していく。

けれども、どこか食い足りないのだ。

たぶんそれは、この作品の持つウエットさのためだと思う。
そこまで書き込んでは作品世界が壊れるだろうというところまで立ち入って樋口は書いている。
そこが書きたかったのだと樋口氏はつぶやくかもしれない。

ハードボイルドはそうではないように思う。
主人公のの熱い思いは、十分抑制した方がいいのではないか。
その効果で作品が作品として伝わってくるのではなかったのか。

抑制のためにハードボイルドは主人公の心の奥底に立ち入るのをやめた。
そうすることで主人公を読者に委ね、狙ったイメージが届くとしたのではなかったのか。

主人公の心を事細かに書きつけていく小説は存在するだろう。
しかし、それをハードボイルドでやることは、どこかちぐはぐだ。

うがちすぎた感想だろうか。

たとえば、原僚がハードボイルド作家として評価されるのはそんなところからではなかったのか。
あまりに主人公の感情をあけすけに書いて読者ともども主人公をアタフタさせるものではない、そう言い切ってみようか。

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