2008年3月23日日曜日

一調二機三声


NHK教育に「知るを楽しむ」という番組があり、今月の毎火曜日の夜は柳美里が「色川武大」の話をしているが、彼女の語りの拙さは目を覆うばかりである。
それでも、彼女がこの番組を引き受けてくれたことでわたしは色川さんについて知らなかった幾つかの面を教えられてとても貴重な時間をいただいた。
柳さんのつたなさというのは、彼女の色川評が十分に熟しきれていない抽象化で、とってつけたようなコトバを頼りに話をするものだから、彼女が色川さんを好きであったことはかろうじてわかるのだが、彼女の見た色川さんはどこにも彼女の話の中にはないといった不具合が生じていところにある。

タイトル「一調二機三声」は世阿弥が発声に関して述べたものであるが、発声でこれだけ奥が深いのだから柳さんの語りをあれこれ言うつもりは一切なく、実のところはそのつたなさも彼女の愛嬌のごときものが見え隠れしたりしていて、あまり悪い気はしないのであった。
それに彼女には小説という書き言葉の世界があって、そこに話芸を要求するのも大人気ないではないか。

ああいう話しかたしかできない彼女が、小説においてはあるレベルを越える。
書くと話すはかように違うものかとあらためて思ったりもする。
確かに噺家がうまい書き手とは限らない。

座談の名手であった鶴見俊輔や吉行淳之介が特異なだけのことなのだろう。
とにかく今週の火曜夜は最終回、あの色川孝子さんが登場する。
色川武大はずいぶんせつない心性をもちこの世を生きてきたことを、今週で終るこの番組で実感させていただいた。
それは、わたしの小さな支えとして長く記憶に残ると思う。
いろいろ書いたが、もちろん柳さんにも十分に感謝している。

そういえば、土曜夜だろうか「刑事の現場」というNHKドラマがあるが、三上幸四郎脚本のあのドラマも今週が最終回となる。(確か全四回)
脚本のがんばりとそれに向き合うような演技者がいるこのごろでは珍しいような作品ではないだろうか。

もちろん環境音楽とか環境映像としてはまったく不向きなのだが…

ラベル:

0 件のコメント:

コメントを投稿

登録 コメントの投稿 [Atom]

<< ホーム